第32章 人を救う?人を押す!

「彼女は遺体を引き取る時、署名の欄に確かに『娘』と書いていました」

「そうですか、藤原様」

藤原南は腕の包帯を巻き終え、秘書の返答を聞いて一瞬の沈思に陥った。そうだ、彼女は感情を何より大切にしている。今日の出来事は自分が引き起こしたわけではないが、少なからず自分と関係がある。彼は彼女を見捨て、そして間接的に彼女の母親を死なせてしまったのではないか?

「藤原南、大丈夫?さっき葉田長明から電話があって、事故に遭ったって聞いて驚いたわ。怪我は?」桜は顔色を失い、エレベーターからハイヒールで駆け出すと、藤原南の胸に飛び込み、心配そうに尋ねた。

「いてっ、手を押さえたぞ、桜」藤原南は溺愛するよ...

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