第4章 本当に気持ち悪い
離婚協議書は確かに彼が作成した物ではなかった。彼は水原寧々に十分な金額を残し、これからの人生を不自由なく暮らせるようにしたはずだった。
傍らから声が上がった。「水原寧々が一文無しで出て行くだって?車も家も株式も要らないって?それどころか二年分の医療費まで返すって?マジかよ?これって一歩引いて二歩進むってやつじゃないの?」
「明らかに何か企んでるわよね。きっとすぐに南さんに纏わりつくんじゃない?」
藤原南はかつて、水原寧々の存在のせいで、桜が本当の意味で自分を受け入れることはないと思っていた。毎日、水原寧々との関係を完全に断ち切ることばかり考えていた。結婚証明書は、まさに彼を縛り付ける枷だった。そして水原寧々は、彼の幸せへの道を阻む障害物に他ならなかった。
しかし今この瞬間、藤原南は手の中の離婚協議書を見つめながら、実はそれほど期待していなかったことに気付いた。
そのとき、佐藤桜から電話がかかってきた。藤原南は着信画面を見て、すぐに笑みを浮かべ、ドアを開けながら電話に出た。「桜!」
佐藤桜はホールに立っており、ちょうど水原寧々の姿を目にした。彼女は気さくに挨拶を交わした。
「水原先輩、あの日の薬物の件、真相は分かりましたか?先輩、警察に届け出るべきですよ」
水原寧々は彼女に微笑みかけた。「信じてくれてありがとう。もう警察には届け出たわ。佐藤さん、藤原南とお幸せに」
藤原南は彼女を信じていなかったが、佐藤桜は信じていた。その言葉が本心かどうかに関わらず。
佐藤桜は少し緊張した様子で尋ねた。「南さんは記憶を取り戻しましたか?」
水原寧々は首を振った。「わたしにはわからないわ。離婚協議書は渡したから。もう手放すことにしたの」
佐藤桜が返事をする間もなく、藤原南が突然現れ、佐藤桜の手を引いた。
藤原南は二人に会わせたくなかった。水原寧々が佐藤桜に薬物投与とベッドの件を話すのを恐れていた。
彼は佐藤桜を抱き寄せ、個室の方へ歩き出した。「桜、先に入ろう!」
しかし佐藤桜は一歩後ずさり、笑って言った。「南さん、用事があるので、お付き合いできません。お誕生日おめでとうございます!」
藤原南は前に出て、佐藤桜の手首を優しく掴み、眉をひそめながら懇願した。
「桜、どんなに重要な用事でも、明日にしてくれないか?今日は俺の誕生日なんだよ。俺と一緒にいてくれないか?」
まるで大きな辛さを抱えているかのように。
水原寧々は自分の用が済んだと見て、その場を離れようとした。
佐藤桜は彼女を一瞥してから、藤原南に向き直った。
「ごめんなさい南さん、本当に用事があるんです。前にも言ったように、いつか南さんが記憶を取り戻して、それでも今日のように私のことを好きでいてくれたら、その時は必ずお付き合いさせていただきます!将来後悔して、私を恨むようなことになって欲しくないんです」
藤原南はそれを聞くや否や、怒りが込み上げてきた。眉をひそめて問いただした。「水原寧々が何かデタラメを言ったのか?」
藤原南は額に青筋を立て、佐藤桜が何か言う前に一歩進み出て水原寧々を掴み、彼女がよろめくほど強く引っ張った。
さらに水原寧々を強く突き飛ばした。「水原寧々!桜に何をデタラメ言った?!お前マジで吐き気がする!」
「水原先輩!」佐藤桜が叫んだ。
藤原南のその強い一押しに、水原寧々は全く備えができておらず、クラブの玄関にある大理石の柱に頭を強く打ち付けた。
水原寧々は地面に崩れ落ち、額から血が流れ出した。
そのとき、夏目空も出てきて、ちょうどこの場面を目撃し、急いで駆け寄って水原寧々を支えようとした。
夏目空は水原寧々の額の血を見て、振り返って叫んだ。「藤原南、お前頭おかしいんじゃないのか?」
夏目空は水原寧々を支えながら言った。「寧々、病院に連れて行くよ!」


























































