第5章

恵莉奈視点

あの夜の口論が、私と桜井光代の間に目に見えない、しかし決して越えられない壁を築いた。私は彼の視線をことごとく避け、彼もまた私のオフィスに足を踏み入れることはなかった。二週間が過ぎ、私たちの間に漂う氷のような空気に、幼い桜井咲良さえも気づいていた。

行き場のない苛立ちと格闘していた時、スマートフォンの画面が不吉な光を放った。見知らぬ番号だったが、そのメッセージは私の血を凍らせるには十分だった。

『明日正午、桜花カフェ。組織犯罪捜査に関する取引だ。お前と光代が塀の中に落ちるのを免れる、たった一度のチャンスだ。――田中』

警視庁の捜査官が、非公式な面会を? 馬鹿げている...

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