第6章

恵莉奈視点

時間が、凍りついた。桜井光代の瞳の奥に、今まで見たこともない剥き出しの獣性が宿っている。私の全身が、芯から焼き尽くされるように火照った。理性が悲鳴を上げて彼を突き放せと叫んでいるのに、体は裏切り者のように動かなかった。

「だめ……」

かろうじて絞り出した声は、吐息となって彼の肌に溶けた。

「家族が壊れてしまう……あなたも、私も……」

「知るか」

光代は唸り、私の唇を奪った。それはキスというより、縄張りを主張する獣の牙だった。乱暴に、必死に、こじ開けられた唇の隙間から彼の舌が侵入し、私の全てを貪り尽くそうと暴れ回る。

「光代、やめて! こんなこと、できない!」...

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