3-バンドエイドはありますか?お前に落ちてひざをこすった。
クレア
家に帰り着いてから気づいた。スマホをオフィスに置き忘れてきたことに。ちくしょう。
一瞬、もう取りに戻るのはやめようかと思った。でも、無理に決まってる。私ってば、数時間でもスマホなしで生きていけるほどテクノロジー離れできてないし。それに、いとこのローラが母親――つまり私の叔母さん――のことで問題を抱えていて、何かあったときにすぐ連絡が取れるようにしておきたかったのだ。
だから、私はもう一度出かける前に、飼い猫にご飯をあげることにした。猫は、「ご飯をくれないとどうなるかわかってるわよね」って言いたげな目つきで私を見つめている。この子の要求を無視して出かけちゃいけないってことは、経験上わかっている。もしそんなことをしようものなら、帰ってきたときにはソファがズタズタに引き裂かれているか、植木鉢がひっくり返されているかのどっちかだ。
ツナの貢ぎ物で猫様にご満足いただき、一時的なお許しを得たところで、私はため息をつき、渋々車へととぼとぼ戻った。車を走らせながら、ラジオの音量を上げて、思いっきり大声で歌い始めた。二曲目になる頃には、気分も実際に上向き始めていた。案外、この寄り道も悪くないかもしれない。
だって、夜のオフィスなんて今まで行ったことないし。誰もいなくて、暗い場所を見るのって、ちょっとカッコいいかも。ミステリアスな感じ、しない?
はいはい、わかってる。かなり苦しい言い訳だよね。プラン変更。帰りにアイスを買って帰ろう。うん、絶対そうすれば気分も良くなる。アイスは万能なんだから。百パーセント間違いない。
会社の駐車場に車を滑り込ませると、すぐに他に一台車が停まっていることに気がついた。あれ。暗くなってから来てるのは私だけじゃないみたい。誰か、大きな締め切りか何かで残業してるのかな。
車から降りてスカートのしわを伸ばし、エレベーターに向かう。その車の横を通り過ぎるとき、好奇心が抑えきれなくなった。ちょっとお節介かもしれないけど、中を覗かずにはいられない。人が車の中にどんな変なものを置いているのか見るのって、時々楽しいじゃない?それに、ここで私を咎める人なんて誰もいないし。
残念ながら、その車は塵一つなく、変なものも面白いものも何もない。つまんないの。
肩をすくめて先へ進もうとした、その時。車のそばを通り過ぎた瞬間、何かに躓きそうになった。……というより、誰かに。
な……に、これ。
最初の本能はパニックを起こすことだった。この車があるのは、このせい?誰か、急病人でも出たの?お願いだから、本当に医療的な助けが必要な人じゃありませんように。私じゃ何もできない。特に、私のスマホはまだオフィスの中。こんな危機的状況で、私はまったくの役立たずだ。私にできる応急処置なんて、絆創膏を貼るか、助けを呼ぶかくらいなのに。
膝をつき、その人を仰向けに転がして――私は凍りついた。
ルーカスだ。一体、彼に何があったの?
殴られて、意識を失っていて、今日見たあのムカつくほど自信満々な男の面影はどこにもない。駐車場で強盗にでも遭ったの?いつからここに?
意識があるか確かめようと、彼の肩に触れようと手を伸ばしかけて、はたと動きを止める。この男が人の心を読むことを思い出したからだ。でも、罪悪感がこみ上げてくる。意識がないじゃないの、もう。私の心の中を覗かれる心配なんてしてる場合じゃない。私はそっと彼を揺さぶった。
「ルーカス?」
返事はない。救急車を呼ぶべき?たぶん、そうね。オフィスまでスマホを取りに走るべきか迷っていると、彼がかすかに呻いた。
「ルーカス?」
もう一度、彼の腕に触れて呼びかける。彼の瞼が震え、ゆっくりと目が開く。その目はぼんやりとしていて、混乱しているようだった。その直後、彼は一気に起き上がろうとした。
「わっ、気をつけて!」
私は彼の腕に手を置いて、注意を促す。彼は顔をしかめ、肘をついて上半身を後ろに傾けた。
「ここは……どこだ?」かすれた声で彼が尋ねた。
「職場の地下駐車場よ」と私は答える。彼は、妙にほっとした様子でため息を漏らす。もし自分が駐車場で、怪我をしてぼうっとした頭で目を覚ましたとしたら、安堵なんて感情が真っ先に来ることはないだろう。
彼が落ち着くまで、数分かかった。車にあった飲みかけの水のボトルを渡すと、彼はそれをゆっくりと口にする。足元がいくらかしっかりしたのを見計らって、彼が立ち上がるのを手伝う。
「さあ、私の車まで来て。医者に行くわよ」私はきっぱりと言った。ルーカスはため息をついたが、反論はしなかった。それ自体が気がかりだ。多分、脳震盪だわ。助手席を急いで片付け、ハンドバッグや雑多なガラクタを後部座席に放り込んでから、彼を助手席に座らせる。
「ここで待ってて。携帯、取ってくるだけだから」と私は彼に告げる。戻ってくると、彼はシートに背を預け、目を閉じていた。心臓が跳ね、また気を失ったのかと思って、私は彼の腕を掴んだ。彼の目がぱちりと開き、私は安堵の息を漏らした。
「休んでるだけだ」と彼が呟く。
「よかった。病院に連れて行くから」私は念を押す。彼は頷いたが、私が駐車場から車を出すと、彼が私をじっと見つめていることに気づいた。
「どうして俺を助けるんだ?」彼は静かに尋ねた。私は眉をひそめる。
「さあね。心を読むのが得意なんでしょ、あなたが当ててみたら?」と私は軽口を叩く。彼は困惑したような顔をしたが、何も答えなかった。代わりに、彼はまたシートに寄りかかって目を閉じてしまった。最高だわ。今夜が最悪なだけじゃなく、私のアイスクリームの夢も完全に潰えた。これが会社で遅くまで残業した結果ってわけ。
数時間後、私たちはまだ病院にいた。私のスマホが救いの神だった。おかげで、彼と目を合わせたり、世間話をしたりするのを避ける絶好の口実ができたのだ。やっと医者に診てもらえたと思ったら、今度は質問攻めに遭った。「何があったんですか?」「どうしてこんな怪我を?」私に答えられるはずもない。ただ肩をすくめ、彼を見つけた経緯を説明するだけだ。やがて、医者は私がすでに疑っていたことを裏付けた。彼は脳震盪を起こしている、と。さらに、肋骨の骨折、顔のひどい打撲、そして数か所の擦り傷やあざもあった。彼に何があったのか尋ねても、その答えは私のものと同じくらい役に立たなかった。
「わかりません」彼は淡々とそう言った。医者は、頭を強く打ったせいで事件の記憶を失っているのかもしれない、と示唆した。まあ、ありえない話ではないだろう。でも、こんなひどい怪我を負っておきながら、ほんの数分前の出来事をまったく覚えていないなんて、にわかには信じがたい。何かがおかしい。しっくりこない。
病院を出る頃には、朝の四時近くになっていた。疲れてるし、イライラするし、ヒールのせいで足は痛いし、おまけに数時間後には出勤しなきゃいけないっていうのに。はっ! 無理に決まってる。ベッドが私を呼んでいる。そんなことがあり得るのかわからないけど、ルーカスは私が感じている以上に疲れているように見えた。もっとも、体をきれいにしてもらい、包帯を巻かれ、まともな痛み止めを投与されたおかげで、少しはましに見えるけれど。医者からは、彼を一人にしてはいけないと厳しく指示された。
「お願いだから、家にはあなたの様子を見てくれる人がいるって言って」私は望みを込めて言った。彼はゆっくりと首を横に振った。
「俺には……頼れるような人はいない」彼はそう答えたが、その返事は私がした質問にしては、どこか重々しく感じられた。私は深いため息をつく。今夜の一件で、私の来世は安泰だろうな。まったくもう。
「わかったわよ。あなたの家でしばらく様子を見るしかないみたいね」私は再びため息をついた。彼はすぐに心配そうな顔になった。
「家には帰れない」彼はきっぱりと言い、私は眉をひそめた。
「は? じゃあ他にどこへ連れて行けって言うの?」私は混乱して尋ねた。
「どこでもいい。ただ、家だけはダメだ。家は……安全じゃないんだ」彼は言い張った。もう、それで限界だった。私は即座に車を路肩に寄せた。












































































































































