66-いい口説き文句を用意していたけど、あなたはとてもかっこいいから文字通り言葉が出ない。

待つ時間の一分一分が、まるで一時間にも感じられる。爪先で舗道をこつこつと叩き、腕を組んでは解き、息が何度も喉に詰まる。時計を見つめたところで時間の進みが早くなるわけでもないのに、スマホの画面を確認するのをやめられない。

でも、ただ待っているからじゃない。この場所が。ここがおかしいのだ。これは秘密の会合のはず。見方によっては、誘拐未遂にだってなりかねない。それなのに、これからやろうとしていることに対して、周りの世界がどうにもしっくりこない。

路地は犯罪ドラマに出てくるような、薄暗くてジメジメして、腐臭がそこかしこに漂っている場所なんかじゃない。違う、ただ……普通なのだ。午後の遅い時間から夕暮...

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