第57章 彼の唇を噛み破る

黒崎蓮の心臓が、何か鋭利なもので抉られたように痛んだ。かつてないほどの苛立ちと狼狽が、胸の奥からせり上がってくる。

彼は、言葉を失っていた。

その顔に張り付いていた冷笑と無関心という仮面に、初めて亀裂が入ったのだ。

「……くだらない」

彼は歯の間からその一言を絞り出した。それは、自分自身を正当化するための捨て台詞のようだった。

黒崎蓮は、己の理性を狂わせるこの場所から一刻も早く立ち去ろうと、ドアノブに手をかけ、力を込めて捻った。

カチャリ、と解錠の音が響く。

だが、ドアを引き開けようとした正にその瞬間。

廊下からヒールの足音が近づいてくるのが聞こえた。女が上機嫌に鼻歌を口ずさ...

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