第4章
玄関のドアが開くと、安藤池はまるで壊れやすい硝子細工でも扱うかのように、慎重に、そして優しく織本鈴子に寄り添いながら入ってきた。
織本鈴子が弱々しい声で「お腹すいた」と一言呟くや否や、母の織本雪はハンドバッグを放り投げ、キッチンへと駆け込んだ。普段は手術室でメスを振るい、家事とは無縁の生活を送ってきた超一流の外科医が、今はスマートフォンの画面に映る『術後回復食』のレシピと睨めっこしながら、ぎこちない手つきで包丁を握りしめている。
父の織本遠矢はと言えば、あらかじめ用意していた株式譲渡契約書を取り出し、織本鈴子の目の前に差し出した。「九死に一生を得た」祝いのプレゼントだと言って。
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