第5章

 その瞬間、世界から空気が根こそぎ奪われたような錯覚に陥った。

 織本雪が受話器を握る手は激しく震え、顔色は瞬く間に蒼白になり、唇からは血の気というものが完全に失われていた。

「何を……言っているの……」

 喉を締め上げられたかのように、その声は乾ききっていた。

「私はこの病院の外科主任よ。織本杏が死んだなんて、私が知らないはずがないでしょう? あの子の嘘に付き合うために、医療従事者としてのモラルを捨ててまで、こんな悪質な冗談を言うつもり?」

 電話の向こうの看護師もまた、その言葉に激昂したようだった。冷徹で硬質な声が響き渡り、死のような静寂に包まれた寝室で、それはあまりにも耳障り...

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