第146章

だが中村美知子は声を上げられなかった。長年連れ添った中村良太郎の気性を熟知しているからだ。一見、温厚で物腰柔らかそうに見えるが、その芯は強情そのもの。一度腹を決めれば、テコでも動かない男なのだ。

もっとも、美知子の頭の回転は速い。今は自分の命を救う腎臓が何より必要だ。この土壇場で事を荒立てるわけにはいかない。娘の機嫌を損ねてはならず、ましてや良太郎を怒らせるなど論外だ。

「手術はしないわ。それがいい。奈々に不公平だものね。あの子はまだ若いし、母親の私のためにそこまで犠牲になる必要なんてないわ」

彼女はさらに今泉先生に向かって殊勝に頭を下げ、自ら謝罪した。

「今泉先生、本当に申し訳あり...

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