第21章 一発のビンタ

黒田謙志の視線は、その絵にしばらく留まっていた……。

彼は視線を逸らし、傍らを見た。小さな本棚には様々な本が並べられており、そのほとんどが絵画関連や美術品販売に関するものだった。

手に取って開いてみると、どの本にも中村奈々が書き込んだメモがあった。びっしりと書かれているが、筆跡は秀麗で整っており、どのページにも彼女の学びや感想が満ち溢れていた。

彼女は絵を描くことが本当に好きで、ハルカス・ギャラリーでの仕事も大切にしていたのだろうか?

そう思うと、黒田謙志の心に奇妙な感覚が芽生えた。これから自分がしようとしていることを思うと、ほんの一瞬、疑念がよぎった……。

しかし、その疑念はすぐ...

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