第56章 これがクソ野郎ってことか?

中村奈々は恐怖のあまり、身じろぎ一つできなくなった。

今唯一幸いなのは、この小道には薄暗い街灯が一つ灯っているだけで、誰もこちらに気づいていないことだ。

彼女はシートベルトを固く握りしめ、震える声で言った。「黒田謙志、あなたほどの男ならどんな女でも手に入るでしょう。だから、お願い、私を解放してくれない?」

黒田謙志は彼女の柔らかな顎を掴んで顔を上げさせると、笑うでもなく笑うでもない表情で彼女を見つめた。

「ここ何年も俺を追いかけてくる女は掃いて捨てるほどいたが、どういうわけか、お前だけが俺を病みつきにさせた。なあ、どうしてくれるんだ?」

中村奈々は彼の接触を拒むように首を振る。その...

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