第85章

急カーブに差し掛かったその瞬間、高橋文也は卓越した技術を見せつけた。

体を内側に大きく倒し、スキー板のエッジを雪面に鋭く食い込ませる。猛烈なスピードを維持したまま、彼は鮮やかにターンを決めた。

黒田謙志も負けてはいない。即座に体勢を整え、より安定したフォームでその難所をクリアしていく。

中村奈々はその様子を固唾を呑んで見守っていた。握りしめた手には汗が滲んでいる。高橋文也の華麗な滑りに心の中で喝采を送る一方で、黒田謙志の身を案じていた。

黒田謙志との付き合いは長いが、彼がこれほどの手練れだとは知らなかった。

滑走する二人と、緊張で強張った中村奈々の横顔。それらを交互に見比べ、森田美...

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