第87章

互いの息が溶け合うほどの至近距離。荒い呼気が、鼓膜を震わせるほど鮮明に聞こえる。

中村奈々の心臓は早鐘を打ち、今にも胸から飛び出しそうだった。

高橋文也の瞳には、かつて見たことのない強烈な征服欲が宿っている。

彼女は、こんな彼を知らない。

拒むべきか、それとも受け入れるべきか。

中村奈々はすべての思考を遮断するように、怯えて瞼を閉じた。目を開けることなど、とてもできない。

その時、無粋なノックの音が空気を切り裂いた。

高橋文也の眉間に苛立ちが走る。彼は低く毒づくと、身を起こしてドアへと向かった。

扉が開くと、そこにはルームサービスのワゴンを押した店員が立っていた。

店員は部...

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