第91章

彼女は顔を上げることすらできず、うつむいたまま彼らの傍らを通り過ぎようとした。

その時、黒田謙志が彼女を呼び止めた。

「中村奈々、送っていく」

中村奈々はその場に立ち止まると、ゆっくりと身体の向きを変え、努めて平静な声で答える。

「結構です、黒田さん」

そう告げると、彼女は再び歩き出し、ロープウェイ乗り場へと向かった。

黒田謙志は、その華奢で頼りなげな背中を見つめ、眉をひそめた。その瞳には微かな懸念が浮かんでいる。彼は薄い唇を真一文字に引き結ぶと、意を決したように大股で彼女を追いかけた。

その場に残された森田美波は、しばらく呆然と立ち尽くしていた。やがて、彼の高く逞しい背中を見...

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