第5章 完全に消える

 家に戻り、私は十分で荷物をまとめた。

 実のところ、持って行くものなどほとんどなかった。

 この三年で買った服はすべて津川陸好みの淑女風で、ピンクのワンピースや白いレースのシャツなど、一枚たりとも欲しくない。

 アクセサリーも彼が世間体のために買った安物ばかり。以前の私の社交界では、使用人に譲るのさえ躊躇われるレベルの代物だ。

 私はパスポートと身分証明書、そして一枚の水谷家特有のブラックカードだけを持ち出した。

 その他の私に関するものは全て捨てた。彼らに残してやる義理はない。

 このブラックカードは三年前、家出をした時に父がこっそり持たせてくれたものだ。

「知夏、もしその...

ログインして続きを読む