第7章 離婚協議書

鈴木蛍から告げ口されたのだろうと瑠璃は察していた。だが、心に後ろめたさはない。間違ったことをしたのは自分ではなく、鈴木蛍なのだから。

「確かに行きましたけど…でも…」

「鈴木瑠璃、お前は本当に性悪だな!」藤原圭の怒鳴り声はガラスの破片のように瑠璃の心を切り刻んでいく。言葉にならない痛みが全身を駆け巡る。

「蛍に死んでも私から離れないと言ったんだって?蛍を藤原家に入れさせないとも?」

告げ口に誹謗中傷まで。やるじゃないの、鈴木蛍。

瑠璃が言い訳しようとした瞬間、体が宙に浮く。藤原圭に投げつけられ、ベッドに叩きつけられた。

男は乱暴に彼女の体を貫く。痛みが全身を覆い尽くす。これは愛のない暴力でしかない。藤原圭は今や残虐な加害者と化していた。瑠璃は恐怖に震えながら、お腹の子供の無事を祈った。

なぜ、彼はこんな方法で自分を辱めようとするのか。理解できない。

耐え難い屈辱と引き裂かれるような痛みに、瑠璃はすぐに意識を失った。

病院の白いシーツの上で目を覚ました瑠璃は、ぼんやりとした視界が徐々に焦点を結ぶにつれ、見知らぬ場所にいることに気付く。何が起きたのか思い出そうとする中、傍らの人影に気付き、心臓が締め付けられる。

「目が覚めた?」ベッドの横に座る鈴木蛍の顔には冷ややかな笑みが浮かび、嫉妬と皮肉の眼差しを向けてくる。

「あなたって本当にすごいわね。こんな理由で入院するなんて」

そうだ。藤原圭の暴力に耐えきれず気を失い、病院に運ばれたのだ。

「なぜここに?」瑠璃は不吉な予感を感じながら小声で尋ねた。

「妹のお見舞いよ」鈴木蛍は意地の悪い笑みを浮かべる。

「怪我をしたって聞いたから。可哀想に。圭はあなたのことなんて全然大事にしていないのね」

胸が刺すような痛みを感じながら、瑠璃は感情を抑えて問う。「何が言いたいの?」

「たくさんあるわ」蛍は瑠璃に身を寄せ、低い声で囁く。その目には邪悪な光が宿っていた。

「まず、圭は私のそばにいて、全ての愛を私にくれるの。私に夢中なのよ!毎晩私と一緒にいるのよ。あなたみたいな捨てられた女とは違うわ!」

だから藤原圭は家に帰って来ない夜は、鈴木蛍と過ごしていたのだ。

「何を...言ってるの?」突然の事実に、瑠璃は心が震えた。

「まさか、あなたみたいな汚らわしい女を愛し続けると思ってたの?」蛍は挑発的な笑みを浮かべる。

「あなたなんて彼にとっては通りすがりの女でしかないのよ!」

瑠璃は無力な怒りを感じながらも、蛍をまっすぐ見つめて言った。「

私は圭のことを簡単には諦めない!」

「じゃあ、本気の私を見せてあげるわ!」蛍は不敵な笑みを浮かべ、鞄から書類を取り出して瑠璃の前に叩きつけた。

「離婚協議書よ!まだ自尊心が残ってるうちに、さっさと署名して彼から離れなさい!」

「どういうつもり?」瑠璃の心は底知れぬ絶望感に沈んでいく。「私は絶対に署名しない!」

「選択権があると思ってるの?」蛍は冷たく笑う。

「たった一人でも、私は決して譲らない!」瑠璃の声には苦痛から生まれた強い決意が滲んでいた。

「圭のことは絶対に諦めない!」

「哀れな瑠璃」蛍は協議書に指を這わせながら冷たく言い放つ。

「見なさい、この田舎くさい姿。圭が一生あなたのような女を愛するはずがないわ。圭は私に何度も言ってたわ。あなたは彼が見た中で一番気持ち悪くて、恥知らずで、吐き気がする女だって。あなたとの結婚は人生最大の汚点だって!」

瑠璃の心は怒りと苦しみで満ちていた。目の前の蛍を見つめながら、両手は震えている。いつかこんな日が来ることは予想していた。ただ、こんなに早く来るとは思わなかった。

藤原圭が愛しているのは鈴木蛍。この恋の追撃戦で、自分は敗者。完膚無きまでの敗北を喫するしかない。

血の気を失っていく瑠璃の顔を見て、蛍は勝ち誇ったように笑った。

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