第25章

彼女が指差す方を見ると、一頭の巨大な黒熊が、少し離れた樺の木の下で背中を擦りつけているのが見えた。

俺の心臓がどきりと跳ねる。黒熊の凶暴さと力はよく知っていた。

大平愛子の声が震えていた。「私たちの運、最悪ね。どうしてこんな猛獣に出くわすのよ!」

俺は深呼吸をして、必死に冷静を保とうと努めた。「声を出すな! 刺激しちゃだめだ。あいつが自ら立ち去るのを待つ」

しかし、大平愛子は違う見解を持っていた。「海老原和生、あいつは鼻がすごく利くのよ。すぐに私たちの匂いに気づくわ。何か手を打たないと」

俺は眉をひそめて少し考え、それから大平愛子を見た。「どうしろって言うんだ?」

大平愛子の目に...

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