第59章

本田安奈は顔を上げ、俺を一瞥した。その瞳には、一瞬戸惑いの色がよぎる。

彼女が手を引こうとしたが、俺はそれをぐっと掴んで離さなかった。

「動くな。血を吸い出してやる」

本田安奈は少し躊躇した。

「おじさん、汚いですよ」

だが俺は彼女の指についた砂も構わず、怪我をした人さし指を直接口に含んだ。

血の生臭さが海水と砂の土臭さと混じり合い、味蕾を刺激する。俺は一度吸ってから、それを吐き出した。

彼女の人さし指には、くっきりと一本の切り傷ができており、そこからすぐに血が滲み出てくる。

俺は再び傷口の血を吸って吐き出し、それを数回繰り返すと、ようやく傷口からの出血が止まっ...

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