第73章

本田安奈が俺を見上げ、その瞳には涙が光っていた。彼女は優しい声で言う。

「おじさん、その傷……」

俺は微笑み、彼女を慰めるように言った。

「お前は医者なんだから、こんな単純な応急処置じゃ意味がないことは分かってるだろ。救急箱はキャンプ地にあるんだ。あいつらのところに戻って、傷口を処理して、消毒して、包帯を巻き直してもらわないと。その方が俺が生き延びる確率は高くなる」

本田安奈は手の甲で目元の涙をそっと拭うと、立ち上がって俺を優しく抱きしめた。彼女の声が俺の耳元で響く。

「おじさん、ありがとう」

その言葉を聞いた瞬間、俺の胸には言いようのない切ない感情が込み上げてきた。ひどく居心地...

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