第8章

桜原中央区の深夜、私はマンションに一人で佇み、指の指輪をそっと撫でながら、解放感に満ちた笑みを口元に浮かべていた。『世紀の駆け落ち』のニュースは桜原市中に広まっていた。悠真が衆目の前で屈辱を味わったことを思うと、今でも満足感で胸が満たされる。

カチャリ――

不意に鍵が回る音が、部屋に響き渡った。

心臓が止まった。私は勢いよく振り返る。このマンションの合鍵を持っているのは、一人しかいない。

ドアを押し開けて入ってきた悠真は、嵐雲のように暗い顔をしていた。ネクタイは緩み、スーツには皺が寄っている。その銀灰色の瞳は、今まで見たこともない狂気を宿して燃えていた。そんな彼を見て、不思議と私は落ち...

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