第9章
一年後、花崎県。
午後の陽光が、ギャラリーの床から天井まである大きな窓から差し込む中、私は手にしたプラカードを握りしめ、新しい展示作品の前に立っていた。初めて心からの笑みを浮かべて。
一年前、あのエレベーターで亮の手を握っていた少女は、今の自分とはまるで別人みたいだった。あの頃は、桜原市から逃げ出すことが終わりだと思っていたけれど、それが本当の始まりの出発点に過ぎなかったなんて、思いもしなかった。
左手の薬指にはめられたシンプルな結婚指輪が、温かく、控えめな輝きで陽光を捉えていた。ダイヤモンドの眩い閃光ではなく、プラチナの静かな気品。今の私の人生のようだ。この指輪をはめて、ちょうど十ヶ月...
ログインして続きを読む
チャプター
1. 第1章
2. 第2章
3. 第3章
4. 第4章
5. 第5章
6. 第6章
7. 第7章
8. 第8章
9. 第9章
縮小
拡大
