第5章

夏奈視点

一ヶ月後、深夜。

黒石邸のドアベルが、不意に鳴り響いた。

リビングのカーテンの隙間からそっと覗くと、そこには使い古されたスーツケースを引きずる美花の姿があった。髪は乱れ、目は赤く腫れ上がっている――まるで宿無しの浮浪者のようだった。

ちっ……。内心で舌打ちしながらも、私は心配そうな表情を浮かべて玄関へと急いだ。

「美花?」私は驚いたふりをしてドアを開けた。「どうしたの? こんな夜更けに……」

「夏奈さん……」美花は私の顔を見るなり、堰を切ったように泣き崩れた。「もう行くところがないの……。健太に追い出された。二度と顔も見たくないって……」

「まあ、なんてこと。...

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