第73章 奪うのはまさに北村辰の絵

電話の向こうで佐藤愛のすすり泣く声を聞き、北村辰の端正な顔に冷たい光が差した。

泣いている?

誰かにいじめられたのか?

「泣くな。たかが絵数枚だろう。何があったのか、落ち着いて話してくれ」北村辰は立ち上がると、オフィスのハンガーにかけてあった上着を掴み、急いで外へ向かった。

「辰兄、あなたが送ってくれた絵が、誰かに奪われてしまったの」

「何?」

佐藤愛のその言葉を聞いた瞬間、北村辰は全身が硬直した。

今、何と聞こえた?南町市で、俺の絵が奪われただと?冗談じゃない。

「誰に奪われた?」

「山口兄っていう人。大柄で粗暴な感じで、大勢引き連れてきて、私を脅したの」佐藤愛は泣きじゃ...

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