第93章 君にキスしたい

北村辰の言葉に、佐藤愛は一瞬にして張り詰めた。

すぐに自分の顔に手を伸ばし、触れる。すると、顔にあった付けぼくろがぽろりと落ち、佐藤愛はすっかり狼狽してしまった。

北村辰は彼女の動揺を見抜いたようだ。

彼は軽く笑い、言った。「ほくろ、落ちたぞ……」

佐藤愛は気が狂いそうだった。

北村辰は、どうすれば彼女を緊張させられるか、よく分かっている。

佐藤愛は片手でハンドルを握りながら、もう片方の手で落ちたほくろを拾おうとした。しかし、車は走行中であり、とても脇見運転などできる状態ではない。

その滑稽な様子を見て取ったのか、北村辰はすっと腕を伸ばすと、佐藤愛の胸の前を横切...

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