第7章

川崎県立総合病院の救急治療室の蛍光灯が、頭上でブーンと唸っていた。医療スタッフが光くんのストレッチャーの周りに群がっている。

モニターのビープ音、切迫した会話、リノリウムの床を滑る車輪の軋む音――統制された救急室の混沌は、私たちがついさっきまでいた悪夢の世界からすると、どこか非現実的に感じられた。

脳神経外科部長の田中先生は、光くんの脳スキャン画像を見ながら、信じられないというように何度も首を振っていた。「これは、まったくもって信じがたいです。五年間の昏睡状態から、突如として完全な意識を取り戻し、明らかな認知機能の欠損も見られません。医学的な奇跡ですよ」

光くんの手が私の手を探...

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