第52章

「皐月秋雨の母親……」

 明は振り返り、夢に視線を送って、翠川螢の正体を確認した。

 夢は小さく頷き、震える声で言った。

「うん……。昔、あの人の家に遊びに行った時、お風呂に入れてくれるって言われて……浴槽の中に押し込まれて、何度もお水を飲まされたの」

「私が大泣きしたら、やっと放してくれた。でも、パパに言ったら殺すって脅されて……」

「本当に殺されると思って怖くて、それから二度とあの人の家には行かなかったの」

 そう話す夢の身体は、小刻みに震えていた。

 当時、翠川螢が浴槽で彼女に行った仕打ちが、どれほどの傷を心に残したか、誰にも想像できないだろう。

 精神的な傷だけではな...

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