第87章

ポケットの中で鳴り響く無粋な電子音が、情熱的に唇を貪り合っていた二人を現実に引き戻した。

篠宮湊は不機嫌そうに眉を寄せ、皐月夏帆を拘束していた腕を緩める。

彼が自身のスマートフォンを取り出し、画面に表示された着信相手を確認した瞬間、その瞳から甘い熱が引いていき、冷徹なビジネスマンの顔へと戻った。

一方、湊の拘束から解放された夏帆は、彼が電話に気を取られている隙を突き、脱兎のごとく階段の踊り場から姿を消した。

電話の相手は、暁月海斗だった。

受話器の向こうから、海斗の落ち着いた声が届く。

「篠宮社長、お嬢様が目を覚まされました。現在の容体はすべて安定しています。もしお時間が許すよう...

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