第94章

 皐月夏帆は黒川社長のハグを無下に断ることもできず、礼儀正しく、あくまで仕事上の友好を示すハグに応じた。

 店の外で二、三言の挨拶を交わすと、二人はレストランのメインホールへと足を踏み入れる。

 この店はL市でも指折りの高級レストランの一つだ。皐月夏帆との会食のために、黒川社長の手配は周到だった。

 極上のステーキに、八二年物のヴィンテージワイン。テーブルにはキャンドルが揺らめき、洗練されたロマンチックな雰囲気を演出している。

 夏帆が席に着くや否や、バッグの中のスマートフォンが震えた。筱宮湊からのメッセージだ。

 あの日──薬を盛られ、彼と関係を持ってしまった夜。疲れ果てて眠る彼...

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