第1章 離婚協議

贅沢な部屋の空気が抜け切ったかのような瞬間、江崎鏡は呼吸が止まったような感覚に襲われた。全身が硬直し、目の前に立つ男性を、いや、正確には男性が差し出した書類と、その冷たい口調を見つめる目が潤んでいた。

「この離婚協議書にサインしろ。約束通りだ」

そうだ、三年前からの約束だった。江崎鏡は心の中で自嘲した。背中に隠した手には、きつく握りしめた妊娠検査の超音波写真。今となってはもう、取り出すことなどできそうにない。

二時間前、妊娠一ヶ月だと知った時、最初は喜びが込み上げてきた。しかしすぐに不安と戸惑いに変わった。目の前のこの男性にどう打ち明けるべきか考えていたけれど、今となっては。もう何も言...

ログインして続きを読む