第7章 一度のキスで吐く

雲市病院。

心理介入科の診察室で、古村陽平は無表情で医師を見つめていた。

「つまり、これは全て私の妄想だと?治療法もないと?」

朝早くから医師の予約を取って来たのに、今聞かされた話は殺されるよりも辛かった。

「はい、古村さん。お薬での治療は難しいですね。奥様を受け入れて、近づくことを拒絶しないようにされてはいかがでしょうか」中年の医師は結局そんな曖昧な助言しかできなかった。

古村陽平は暗い表情で診察室を出た。

携帯が十数分も激しく振動し続けていた。眉間を押さえながら、ポケットから携帯を取り出した。

着信を確認し、少し躊躇してから通話ボタンを押した。

「清ちゃん」できるだけ穏や...

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