第6章

「相変わらず、独りよがりな男だな」

 温和な声が、私の思考を遮った。

 振り返ると、神崎宴が濡れたお絞りを手にしていた。彼は、先ほど中田池が倒したグラスから飛び散り、私の手の甲を汚した雫を優しく拭ってくれている。その手つきはあくまで柔らかく、眼差しにはどこか呆れたような、それでいて温かい笑意が滲んでいた。

「ごめん、みっともないところを見せたわね」

 私はどっと疲れが出て、椅子に座り直した。

「せっかくの食事が台無しだわ」

「気にするな」

 神崎宴はお絞りを置くと、その美しい双眸を細めて微笑んだ。先ほど中田池に向けていた他人のような余所よそしさは消え失せ、代わりに私の記憶の奥底...

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