第4章
全部削除した。携帯の電源も切った。
三年前――圭吾が手の切り傷で病院に来た。私が手当てをすると、彼は私の手つきを褒め、コーヒーに誘ってきた……。
まったく、あの「事故」とやらも、全部やらせだったのかもしれない。
真夜中を過ぎても頭は冴えわたり、小栗彩の言葉が何度も繰り返される。
彼女は、父が家に火をつけたとき、小栗さん一家が中にいることを知っていたと主張した。ありえない。私の知る父は、意図的に人を殺すような人じゃない。
でも、彼女は公的な書類を持っていた。あれは本物? それとも、私の人生の他のすべてと同じ、またくだらない偽物?
確かめなければ。圭吾のためでも、この噂好きの町のためでもなく、私自身のために。
父の最後の数ヶ月が、洪水のように蘇ってくる。眠れない夜、リビングの椅子に座って、ただ虚空を見つめていた姿。仕事が「複雑なんだ」といつも言うだけで、具体的なことは決して話さなかった。
もし父が本当に彼らの言うようなことをしたのなら、なぜなのかを知る必要がある。もしそうでなければ、私が父の汚名をそそぐ。
父の墓に「人殺し」の烙印を押されたまま死なせるわけにはいかない。
ノートパソコンを起動し、十年も前のニュースを漁り始めた。
小栗家の火事は、ほとんど見出しにもならなかった。「事故の疑い」という短い言及が数件あるだけ。ある記事では「放火の可能性も視野に捜査」とほのめかされていた。
父の死はさらに扱いが小さかった。「建設作業員がビルから転落」とあるだけで、自殺については何も書かれていない。
誰かがこの話を深く葬り去ったのだ。
事件の最初の担当警官、父の昔の同僚、実際に何があったかを知っている人間なら誰でもいい、見つけ出さないと。
でも、ここじゃだめだ。この町はもう私を見限っている。ここを出て、父が昔住んで働いていた場所を調べる時が来た。
決めた。明日、緑山町を出て、本当の答えを探し始める。
また携帯が震えた。案の定、圭吾からだ。今度は電話に出た。
「由実? ああ、やっと……」
「質問は一つだけ、圭吾」彼が話し出すのを遮った。「それだけよ」
「わかった」
「復讐計画だの、正義の裁きだの、そういうくだらないことは全部置いといて――あなたは私のこと、本当に愛したことあった? たった一瞬でも?」
沈黙が永遠に感じられた。
「私は……」
「もういい」そう言って電話を切った。
鞄に荷物を詰め込んでいると、携帯が鳴った。知らない番号からだ。『君の親父の真実を知りたくないか? 明日の朝九時、町の外れにある紅葉の古木まで来い。一人でだ。――本当に知る者より』
翌朝、八時四十五分。私は何もない場所に立つ紅葉の木のそばに車を停めた。
十分後、六十歳くらいの男が木々の間から現れた。作業靴に、ペンキの染みがついたジーンズ。根っからの肉体労働者といった風貌だ。
「あんたが由実ちゃんか?」
「そうです。あなたは?」
「山崎誠だ。あんたの親父さんと一緒に建設現場で働いてた」彼は私の車に寄りかかった。「話がある」
私は車を降りた。「メッセージをくれたのは山崎さんですか?」
「ああ。昨日の神社での騒ぎは聞いたよ。この辺は噂が広まるのが早いからな」山崎誠は首を振った。「だが、連中は何もかもわかっちゃいねえ」
「どういうことですか?」
山崎誠は肩越しに振り返り、周りに誰もいないことを確かめた。「あんたの親父さんは、あの人たちを殺すつもりはなかった。家にいることさえ知らなかったんだ」
心臓が跳ね上がった。「本当に何があったか知っているんですか?」
「一部だけな。理は全部は話してくれなかったが、あいつが追い詰められてたのは確かだ」
私たちは木の下に腰を下ろした。山崎誠はタバコを取り出したが、その手は少し震えていた。
「すべてがめちゃくちゃになる前の最後の数週間、あんたの親父さんはボロボロだった」山崎誠は言った。「猫みたいにビクビクして、現場じゃ上の空でな」
「理は、とんでもなくヤバい連中と深入りしちまったって言ってた。金が払えなきゃ、あんたのところにまで手を出すって脅されたらしい」
「私を……脅した?」
「それが理を追い詰めたんだ」山崎誠はタバコに火をつけた。「あんたの親父さんは、お嬢ちゃんのためなら火の中だって飛び込んだだろうよ。……結果的に、文字通りそうなっちまったがな」
「それで、あの夜、何があったんですか?」
「火事の前日、理の様子がとんでもなくおかしかったんだ。一日中、二言三言しか話さなくてな。仕事が終わると、俺を脇に呼び寄せた」山崎誠は長くタバコを吸い込んだ。「もし自分に何かあったら、あんたのことを見守ってやってくれないかって」
涙がこみ上げてきたが、瞬きでこらえた。「父は……わかっていたんですね」
「そうだろうな。だが、ここからが問題だ――理は、家は空だと思ってた。小栗さん一家は町を留守にしてると、あのクソ野郎どもに聞かされてたんだ」
「でも、違いました」
「ああ。それで、あんたの親父さんは壊れちまったんだ」山崎誠は地面を見つめた。「火事の後、理は完全に我を失った。『俺が殺したんだ』って何度も何度もつぶやき続けてな。自首しようとしたが、債権者どもがはっきり言ったらしい――お前が話せば、娘は消える、とな」
「それで?」
「死ぬほど酒を飲み始めた。食わず、眠らず。毎晩、あの可哀想な人たちが現れて、なぜだ、と問い詰めてくるんだと……」山崎誠の声が荒くなった。「俺も説得しようとしたが、罪悪感があいつを内側から食い尽くしていった」
「父は……私に何か残しませんでしたか? メッセージとか」
山崎誠はシャツのポケットに手を入れ、折りたたまれた紙切れを取り出した。「直前にこれを渡されたんだ。頃合いを見て渡してくれ、と」
震える指でそれを開いた。父の筆跡だ。乱れてはいるが、読める。
『由実へ――これを読んでいるということは、父さんはもういなくて、君はその理由を知ったんだろう。父さんは取り返しのつかないことをした。だが、誓って言うが、誰かを傷つけるつもりは決してなかった。父さんがしたことはすべて、君を守るためだった。自分がしたことに向き合う勇気がなくて、すまない。もう君のそばにいて守ってやれなくて、すまない。由実は、父さんの人生で成し遂げた最高のことだ。――父より』
視界が滲んだ。山崎誠は少し待っていてくれた。
「どうして今、これを?」なんとか声を絞り出した。
「あんたの親父さんの首を絞めてた男、西村律が去年死んだんだ。心臓がやられたらしい」山崎誠はタバコの灰を弾いた。「これでようやく安全になったと思ったんだ」
「西村律を知ってるんですか?」
「建設業界で、あのろくでなしを知らない奴はいねえよ。賭場をやって、闇金の元締めだった。理がハマったのはそこだ」
私は父のメモを丁寧に折りたたんだ。「他に真相を知っている人は?」
「西村律には息子がいた。西村健ってんだ。噂じゃ、親父は息子にすべてを残したらしい――汚い秘密も全部含めてな」山崎誠は膝をきしませながら立ち上がった。「全部の真実が知りてえなら、西村健に会うんだな」
「その人はどこに?」
「北島だ。今は足を洗って、真っ当な建設会社をやってる」山崎誠は紙片を私に手渡した。「会社の住所だ」
「なぜ、私を助けてくれるんですか?」
山崎誠は疲れた目で私を見た。「あんたの親父さんは、いい奴だったんだよ、由実ちゃん。とんでもない間違いを犯しちまったが、悪人じゃなかった。あんたには、本当に何があったかを知る権利がある」
荷物をまとめるために引き返した。旅館の帳場にいた美智子さんは、私がもうチェックアウトすることに驚いているようだった。
「もうお発ちになるんですか?」
「ええ」
「何かありましたか? その、例の件で……」彼女は探るように言葉を濁した。
「片付けないといけない用事ができただけです」
私が領収書にサインしていると、圭吾が入ってきた。充血した目、しわくちゃの服。見るからに憔悴しきった姿だった。
「由実。ちゃんと話し合わないと」
「話し合うことなんて何もないわ」私は荷物を掴み、出口へ向かった。
「頼む、五分だけでいい」彼は私の前に立ちはだかった。
私は立ち止まり、彼をじっと見た。昨日まで結婚するつもりだった男。「あなたの狙いは何、圭吾? 謝るつもり? やっぱり本気だったって言うつもり?」
「私が言いたいのは……」彼は髪をかきむしった。「たとえ、以前何があったにせよ、君が一人でこんな目に遭うのを見てられないんだ」
「どんな目に遭うっていうの? 町のはみ出し者になること? 私の恋愛が全部、嘘だったって知ること?」私は笑ったが、苦々しい響きになった。「ありがとう。でも、大丈夫だから」
「由実――」
「またね、圭吾」私は彼を通り過ぎ、朝の光の中へと歩き出した。







