第95章 人でなしと影

影はバックミラー越しに人でなしを睨みつけた。その表情は驚愕に染まり、信じられないといった様子だ。

「何て言ったの? あいつが『天』だなんて! ありえないわ。絶対にありえない。『天』があんな若造なわけがないでしょう?」

葉山天という名を知る者は、彼の身近な人間を除けばほとんどいない。だが、『天』というコードネームは、ある業界の人間にとっては絶対的な神のごとき存在だった。しかし、『天』の姿を見た者はいない。素顔を見た者は、例外なく死んでいるからだ。

影は国内のある殺し屋組織のメンバーであり、人でなしもまた同組織に属している。二人は今回、Y市で別々の任務に就いていたが、同じ組織とはいえその関...

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