第2章

案の定、結衣が涙を見せると、母さんの表情は一瞬にして冷え切った。

「なんて自分勝手な子なの! あなたはあんなに一生懸命練習しているのに。私が若かった頃と同じよ。あの子なんかより、あなたこそがその役にふさわしいわ」

結衣は涙を拭いながら、か細い声で言った。

「お母さん、沙織も役を落とされて気が動転していただけなのかも。わざとやったわけじゃないと思うの……」

「だからといって、あなたを危険な目に遭わせていい理由にはならないわ!」

母さんの表情はさらに険しくなる。

「あの子のせいで、あなたは足首を痛めたのよ。バレエを知る人間として、それがどれほど致命的なことか、私には痛いほど分かるわ!」

これが昔から結衣の得意技だった。無垢な被害者を演じながら、巧みに火に油を注ぐ言葉を紡ぐのだ。

たとえ私が口を利けたとしても、真実を伝えたとしても、彼らが私を信じることは決してないだろう。これまでだって一度もなかったのだから。

会話の最中、祖母の夢生子が部屋に飛び込んできた。母さんからの電話を受けて、家から飛んできたのだろう。彼女は一目散に結衣のベッドサイドへと駆け寄った。

両親と同じく、祖母の目にも結衣しか映っていなかった。

結衣の無事を確認すると、夢生子は悪態をついた。

「あの子は小さい頃から、私たちが結衣に注ぐ愛情を妬んでいたのよ! 昔から本当に厄介な子だこと!」

結衣はこの機を逃さなかった。

「おばあちゃん、そんなに悪く言わないであげて。二人で練習していた時に、沙織が足を滑らせて……倒れないように私につかまろうとして、それで……」

その口から出る言葉はすべて嘘だった。だが、家族はいつだって彼女を信じるのだ。

母さんは拳を握りしめた。

「あの執念深い性悪娘! よくもあなたを危険な目に遭わせたわね!」

「あの子にあれだけ金をかけてやった結果がこれかい、恩を仇で返す化け物め!」

夢生子がまくし立てる。

「あんな子とは縁を切るべきだよ! この家族にとって災いの種でしかないんだから!」

やりすぎたと気付いたのか、結衣は慌てて身を縮こまらせた。

「沙織を怒らないであげて。本当にただの事故だったのかもしれないし。なんだかんだ言っても、私の妹なんだから……」

夢生子は優しく結衣の髪を撫でた。

「お前は優しすぎるよ。世の中にはね、たとえ家族であっても残酷な人間がいるってことを、お前は知らないんだ」

母さんも頷いた。

「その通りよ。あんな恩知らずのことは忘れて、今はあなたが元気になることだけを考えましょう」

夜の帳が下りる頃、三人は結衣を囲んでいた。夢生子は彼女の手を握り、母さんは髪を撫で、父さんは毛布を掛け直している。

その家族の団欒を見つめながら、私は言いようのない苦痛が魂を引き裂くのを感じていた。

その瞬間、私は悟った。彼らの世界から、私という存在がいかに完全に抹消されているかということを。ただ忘れ去られたのではない――私は望まれない存在だったのだ。彼らの幸福の隅を彷徨う、追放された亡霊のように。

私は必死に、この場から立ち去りたいと願った。この拷問から逃げ出したかった。

その時、激痛が意識を貫き、私をその部屋から引き剥がして、救急救命室へと引き戻した。

周囲から声が聞こえてくる。

「もっと早く搬送されていれば、助かったかもしれないのに」

すでに諦めきった私の体に、彼らが必死に生を吹き込もうとする空しい努力を、私はただ見つめていた。

そして、最期を告げる無機質な電子音が、鋭く鳴り響いた。

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