第3章

二日後、結衣は退院した。

車が止まるとすぐに、母さんが駆け寄って結衣が降りるのを手伝った。必要なら抱きかかえて運ぶ勢いだ。

夢生子も一緒について来ていた。結衣の療養中、自分が世話をしたいと言い張ったのだ。

「ゆっくりね、私の可愛い子」

母さんは結衣の腕を支えながら玄関へと向かい、そう優しく囁いた。

家に戻ると、母さんが真っ先にしたのは目黒医師を探すことだった。

「目黒? 目黒!」

母さんの声が鋭くなる。

「結衣のことで話があるのよ!」

彼女は電話をかけてみたが、留守番電話に繋がるだけだった。

「一体どうなってるの? 一言もなく姿を消すなんて!」

父さんがリビングのソファに結衣を座らせるのを手伝った。

「気分はどうだ? お父さんの可愛い娘」

彼は優しく彼女の手を取った。

「沙織はどこに行ってたの?」

夢生子が大声で尋ねた。

母さんの表情が曇る。

「あの子の話はしないで。病院に行って以来、顔も見せていないんだから。電話の一本も、メールの一通もないわ」

「沙織を責めないで」

結衣が弱々しい声で言った。

「きっと何か事情があるのよ。すごく大事なことの準備をしているのかもしれないわ」

父さんが眉をひそめた。

「怪我をした妹より大事なことなんてあるのか?」

「あの子の優先順位はわかってるもの」

結衣は続けた。

「沙織はいつだって、何よりもダンスを優先してきたから。どうせお父さんとお母さんが私の面倒を見てくれるって、そう思ったのかもしれないわね」

その言葉の一つひとつが、私を身勝手で自己中心的な人間に仕立て上げていく。野心に囚われて、家族のことなど気にも留めない冷たい人間だと。

「あなたまであの子を庇うのね」

母さんは冷たく言い放った。

結衣はため息をついた。

「いつになったら、また沙織みたいに踊れるようになるのかな」

「すぐよ、愛しい子。もうすぐだからね」

幼い頃から、母はずっと結衣を贔屓(ひいき)していた。私は常に、彼女に譲るようにと言い聞かされてきたのだ。

すべては私が八歳の時に始まった。母さんがダンスカンパニーからまたしても不合格通知を受け取った直後のことだ。母さんはスタジオに一人立ち尽くし、汗だくになりながら、どうしても習得できない一連の動作を必死に繰り返していた。

ふらりと入ってきた私は、何気なく母さんの動きを真似て、それを完璧にこなしてしまった。

「お母さん、こう?」

私は無邪気に尋ねた。それがどれほど母を傷つけるかも知らずに。

母の表情が崩れた――誇りなどではなく、絶望によって。

六歳の結衣が走ってきた。

「私にも教えて!」

私は何度もステップを教えたが、結衣は失敗し続けた。

「すごく簡単だよ」

私は何も考えずにそう言った。

結衣は泣き出した。

「できないもん!」

母さんが慌てて結衣を慰めに駆け寄った。その時、母さんの目の中で何かが変わるのを私は見た。母さんは、結衣の苦悩に自分自身を重ね合わせたのだ。

その後、地方大会の開催が発表されると、結衣は新しいシューズが欲しいと駄々をこねた。母さんはすぐに承諾し、店で一時間もかけて彼女の足に完璧に合うものを選んだ。

「結衣の足は繊細なの。最高品質のものじゃないと」

私は去年のボロボロになったシューズを履いて待っていた。

「私は?」

「あなたは適応力があるから、沙織。それで十分よ」

私は平等な扱いを求めて言い返そうとした。だが、母さんは私の言葉を遮った。

「結衣はコンクールのために、あなたの倍も努力してるのよ」

だから私は戦術を変えた。実力を隠し、わざとつまずいたり、本来なら自然にできる技術に苦戦しているふりをし始めたのだ。結衣と同じくらい苦労しているように見せれば、母さんも同じように愛してくれるかもしれないと思ったからだ。

だが、それは裏目に出た。苦労しているふりをすればするほど、母さんは私を批判した。

「妹の献身的な姿勢を見なさい」

夕食の席で母さんはよくそう言った。

「結衣は何時間も練習して、あらゆる困難を乗り越えているのよ」

私に勝ち目はなかった。優れていれば「傲慢」だと言われ、苦戦すれば「怠惰」だと罵られる。

結局、私は彼らの愛を求めて戦うことも、弁解することもやめてしまった。

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