第9章

 てっきり翔太は、お母さんの墓前で私にプロポーズしてくれるものだと思っていた。

 けれど、彼はそうしなかった。

 私たちは母の墓石の前に並んで立った。翔太の手には白い薔薇が握られている。やがて彼は片膝をついた――だが、私に向かってではない。

 彼は、墓石と向き合ったのだ。

「小川さん……」彼の声は落ち着いていたが、そこには深い感情が滲んでいた。「椎名翔太と申します。五年前、あなたの娘さんが俺の命を救ってくれました。そして、生きる意味を与えてくれたんです」

 木々の間を風が吹き抜ける。私は息を詰めて見守った。

「俺は完璧な人間じゃありません。傲慢で、頑固で、時々どうしようもないろく...

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