第1章
医科大学の廊下に夕暮れの光が暖かな輝きを落とす中、私は灰原景の書斎へと足を速めていた。
明日は来月の結婚式の最終的な打ち合わせをすることになっていた。花の装飾や式の音楽について話し合うことを思うと、興奮を抑えきれなかった。
ほとんど抑えきれないほどの熱意で書斎のドアを押し開け、部屋に完全に入る前から口を開いていた。
「景!白薔薇とスミレの組み合わせなんて、とっても素敵なアイデアを思いついたの。それから、式の音楽は――」
しかし、私の言葉は喉の奥で途絶えた。ドアの先にあったのは、暗闇に包まれた、誰もいない部屋だったからだ。
どこへ行ってしまったのだろう。
図書館だ。灰原景は悩んでいるとき、よくあそこで慰めを求めていた。特に古典文学のコーナーがお気に入りで、詩を読むと頭がすっきりすると言っていた。きっとそこに行ったに違いない。
ー
図書館の古典文学コーナーは、ステンドグラスの窓から差し込む幻想的な月光に包まれていた。
その時、本棚の奥から響いてくる聞き慣れた声に、私は不意に足を止めた。
灰原景の声。けれど、私が今まで聞いたことのない声だった。低く、優しく、胸が名状しがたい不安で締め付けられるような、あまりにも生々しい感情に満ちていた。
私は音のする方へ、吸い寄せられるように歩いていた。高くそびえる書架の隙間から、私の世界を木っ端微塵に打ち砕く光景を目の当たりにした。
灰原景が一人の女性を抱きしめていた――まるでこの世で最も尊い宝物であるかのように抱き、その肩からは金色の巻き毛がこぼれ落ちていた。その華奢な体つきには、すぐに見覚えがあった。
灰原琴音。
彼の愛する義理の妹。いつもか弱く、守ってあげなければならないように見えた、あの純真な灰原琴音だった。
「あなたが私を一人の女として愛してくださっているのに、ただの妹のふりなんてできません!」
琴音の声は涙に詰まり、その顔は切ないほどの思慕を込めて彼に向けられていた。
体を支えようと本棚を掴んだ。指の関節が白くなるほど強く。世界がその軸を失って傾いたかのようだった。
「琴音、君は私のすべてだ。だが、世間が決して……」
灰原景の声は感情に震えていた。その手は、私には決して見せたことのない無限の優しさで彼女の頬を撫でた。
彼のすべて。その言葉は、死を告げる鐘の音のように私の心に響き渡った。
「それならどうしてあの人と結婚するのですか?どうして私たち二人を苦しめるのですか?」
琴音の苦悶に満ちた叫びが、刃のように私を貫いた。
灰原景は答えた。
「臆病者だからだ。そして、それが期待されていることだから」
寄せられる期待。私は、その期待そのもの。果たすべき義務。そして…あの二人の許されぬ恋を隠すための、都合のいい隠れ蓑。
恐怖に釘付けになりながら、私は見ていた。灰原景が、深く揺るぎない愛を物語る情熱で、彼女に唇を重ねるのを。私が、彼が私に抱いてくれていると夢見ていた種類の愛。どうやら、完全に他の誰かのものだった愛を。
「景お兄様……」
琴音は彼の唇に触れるほど近くで囁いた。
「あなたが、あの人と一緒にいるのを見るのは耐えられません。あの人の手に触れるたび、あの人に微笑みかけるたびに……」
「しー、愛しい子」
彼は彼女をさらに強く抱き寄せ、囁いた。
「結婚はただの形式だ。私の心が本当はどこにあるか、君は知っているだろう」
形式的なこと。私たちの婚約も、共に計画した未来も、すべて手の込んだ見せかけに過ぎなかった。
どうやって倒れずに図書館を出ることができたのか、覚えていない。
ただ覚えているのは、再び灰原景の書斎の前に立ったとき、私の手は震え、心臓はまるで外科用のメスで胸からえぐり取られたかのように感じたということだけだ。
ー
私が入ると、灰原景は顔を上げ、今となっては偽善的に見える笑みを浮かべようとした。
「千紘。ちょうどよかった。さっき言っていた花の装飾のことだけど――」
「灰原景」
私の声は、彼の心地よいおしゃべりを氷のように切り裂いた。
私は自分の左手を見下ろした。数ヶ月前、あれほど厳かにそこにはめられた婚約指輪。私の指にはどうにもしっくりこず、いつも緩くて滑り落ちそうになり、絶えず位置を直さなければならなかった指輪。
大きすぎる。その事実に、私は衝撃的な力で打ちのめされた。
あの日の記憶が、洪水のように押し寄せてくる。宝石店で、私はすっきりとして上品な一粒ダイヤの指輪がよかったのに、灰原景は頑として譲らなかった。彼が選んだのは、この繊細な透かし彫りが施された、凝った作りのアンティークリングだった。
「こっちの方が君によく似合うよ」
彼はそう言ったけれど、鏡に映る自分の姿に戸惑いが見えたのを覚えている。
私に似合う?それとも、まったくの別人に?
琴音の華奢な手、彼女が透かし彫りのデザインを好むことはよく知られていた。この指輪は――そのサイズも、スタイルも、その本質そのものが――最初から私のために選ばれたものではなかったのだ。
「別の女性の指のために、別の女性の趣味で選ばれた指輪」
私は囁いた。その言葉は、静かな水面に投じられた石のように落ちた。
「この茶番劇全体を、なんて完璧に象徴しているのかしら」
灰原景は、明らかに困惑した様子で眉をひそめた。
芝居がかった仕草も、大げさな身振りもなく、私は指から指輪を滑らせた。それはいつものように、いとも簡単に外れた。
落ち着いた足取りで彼の机まで歩み寄り、磨き上げられたその表面にそっと置いた。金属が木に当たるかすかな音が、永遠に響き渡るように思えた。
「これは、他の誰かのものだと思いますわ、灰原景」
私は彼の目をまっすぐに見つめた。
「どちらにしても、私には本当の意味で似合ったことはありませんでしたから」
彼の顔は蒼白になった。
「千紘、何を言っているんだ?何かあったのか?私には理解できない――」
「私には、完璧に理解できましたわ」
私はドアに向き直り、一歩一歩、決然と、そして最後の一歩を踏み出した。
「この指輪が、誰のために意図されたものだったのか、正確に」
「千紘!待ってくれ、頼む!」
灰原景は椅子から立ち上がったが、私はすでに戸口に達していた。
私は立ち止まり、最後にもう一度彼を振り返った。その瞬間、怒りも、涙も、説明を求める必死の懇願も感じなかった。ただ、私たちの関係について私が抱いていたあらゆる幻想を切り裂く、水晶のような明晰さだけがあった。
「灰原景、この指輪を本来の持ち主に渡すときには、サイズが正しいか確かめることをお勧めしますわ」
私は廊下に出て、背後でドアを閉めた。その音は、まるで一冊の本が閉じられるかのように、誰もいない廊下に響き渡った。
彼らは私を愚か者だと思っていた。利用され、捨てられる、都合のいい、世間知らずの小娘だと。
私はメスを操るための訓練を受けている。
だが私は、どこを最も深く切りつければ一番痛むのかを、たった今、正確に学んだのだ。
私が歩き去る頭上でガス灯が揺らめき、廊下の壁に私の影を長く、鋭く落とした――もはや、灰原景の婚約者の影ではなかった。






