第2章
眠れなかった――眠れるはずもなかった。目を閉じれば、あの光景が蘇る。灰原景と灰原琴音。私の人生について知っていると思っていたことすべてを粉々に砕いた、あの抱擁が。
医学書は、絶望のあまり投げつけたまま、板張りの床に散らばっていた。自らの心がこれほど徹底的に解剖されてしまった今、解剖学を学ぶ意味などあるのだろうか。
ドンドンドン!
「千紘!いるんでしょ!」
栗山紗雪の声が、私の惨めさを正確に切り裂いた。ガサガサという物音――また朝刊を持ってきたのだろう。
死人のような顔をしている自覚はあったが、重い体を引きずってドアに向かった。
私の姿を見るなり、栗山紗雪は息を呑んだ。持っていた新聞が床にばらまかれる。
「なんてこと、千紘!ひどい顔よ!」
彼女は駆け寄り、氷のように冷たい私の手を握りしめた。
「一体、何があったの?」
彼女の目を見ることができなかった。
「紗雪……昨夜、灰原景と灰原琴音について、恐ろしいことを知ってしまったの」
「どんな恐ろしいこと?」
言葉が喉に突き刺さるガラスの破片のようだった。
「二人は……恋人だった。兄妹が決してあってはならない形で」
栗山紗雪の顔が青ざめたが、しかし――奇妙なことに――その表情はほとんど困惑に近いものへと変わった。
「灰原琴音が?」
彼女は首を傾げた。
「でも、あの子が灰原景の実の妹ではないこと、まさか知らなかったの?」
私の世界が、ぴたりと止まった。
「どういうこと?」と私は尋ねた。
栗山紗雪は、まるで私が地球は平らだとでも主張したかのような目で私を見つめた。
「津与市の社交界では常識よ。灰原家は、あの悲惨な工場火災の後にあの子を養子に迎えたの。ご両親も犠牲者だったそうよ」
その言葉は、物理的な一撃のように私を打ちのめした。私はよろめきながら後ずさり、狭いベッドに崩れ落ちた。
「養子?あの子が……養子ですって?」
「ええ、まだ十二歳の時だったわ、可哀想に。灰原家の慈悲の心から引き取ったけれど、灰原景の血縁者では決してないのよ」
頭が混乱した。これまで見過ごしたり、誤解したりしてきたすべての記憶、すべてのやり取りが、破壊的なまでの鮮明さで蘇ってきた。
「じゃあ、あの二人は本当は……そして私はただ……」
「かもね」
栗山紗雪は私の隣に腰を下ろし、その声には優しさと憐れみが滲んでいた。
部屋が傾ぐような感覚に、私はこめかみを両手で押さえた。不意に、意識は灰原家の豪奢な客間に引き戻される。金縁の肖像画と重厚なベルベットのカーテンに囲まれた、あの部屋に。
ー
私は必死だった。気に入られようと、灰原景の「妹」の歓心を買おうと躍起になっていた。
「景、琴音がどうも私に心を開いてくださらないようなのです。もう少し、あの方の信頼を得られるよう努力すべきでしょうか?」
彼は医学雑誌から顔も上げずに言った。
「なぜ彼女が君に心を開く必要がある?君は私が選んだ女だ。その選択に私が満足している、それで十分だろう」
その時は、彼の合理的な、科学的な思考がそう言わせているのだと思った。今ならわかる。あれが冷酷な拒絶そのものであったことを。
ー
「なんて目が曇っていたのかしら!」
私は勢いよく立ち上がり、檻の中の獣のように部屋を歩き回った。
「彼は私のことなど、『自分が選んだ女』――都合のいい駒としか見ていなかったんだわ!」
「千紘、どうするつもり?」
私は振り返った。苦痛に満ちた記憶の一つ一つが、新たな理解と共に脳裏を駆け巡る。
「琴音がいつも私たちの会話に割り込んできたこと、家族の集まりで必ず私たちの間に割って入ってきたこと、二人きりになると決まって灰原景の気を引こうとしたこと……」
一つ気づくごとに、私の声は高ぶっていく。
「あれは兄妹の絆を守っていたんじゃない――自分の縄張りを主張していたのよ!」
「灰原景は?」
「私を利用していたのよ!」
真実が、胸の中で酸のように灼けつく。
「妹との不適切な関係を隠すための、世間体の良い婚約。私は彼の盾、彼らの体面だったのよ!」
私は書き物机に駆け寄り、引き出しを力任せに引いた。勢い余って、レールから外れそうになるほどだった。
「何をしているの?」
「手紙を」
私は一番上等な便箋と、先の鋭い羽根ペンを取り出した。
「婚約を解消するための、正式な手紙をね」
栗山紗雪は息を呑んだ。
「千紘、考え直して!婚約破棄なんて……大変な醜聞になるわ!」
私はすでにインク瓶の蓋を開けていた。全身を駆け巡る怒りとは裏腹に、手は微動だにしない。
「私の尊厳は、世間の評判よりも価値があるわ」
「でも、あなたの評判が――」
「何の評判?利用されていることにも気づかなかった愚か者としての評判?」
私は羽根ペンをインクに浸した。鋭いペン先が準備を整える。
「誰かの恋物語の、都合のいい道具になんてならない」
「表現は穏便にするわ」
私は手元から目を離さずに言った。
「『感情的な相性における、和解しがたい不一致』――そうすれば、皆の体面を守りつつ、私の立場を明確にできる」
栗山紗雪は両手を揉み合わせた。
「本当にいいの?この手紙を送ってしまったら――」
「この手紙を送ったら、私は自由になれる」
私は書き続けた。一文字一文字が、解放への一歩だった。
「真実から目を背けるふりをする自由。あの二人の歪んだロマンスの、邪魔者でいることから解放されるのよ」
羽根ペンが、決然とした筆致で紙の上を走る。
【熟慮の末、私達の間には和解しがたい根本的な不一致があるとの結論に至りました。互いの未来のためにも、婚約を解消することが最善の道であると信じます……】
「紗雪、使いの者の手配を手伝ってくれる?この手紙は、今夜中に灰原景の元へ届けなければならないの」
友人は、感嘆と心配が入り混じった目つきで私を見つめた。
「ひどい醜聞になるわよ」
私は羽根ペンを置き、彼女に真っ直ぐ向き直った。
「噂させておけばいい。好きに裁かせておけばいいわ」
私は窓辺へ歩み寄り、眼下に広がる賑やかな津与市の通りを見下ろした。間もなく私は、客間の噂話や社交界の憶測の的になるだろう。かつては私を恐怖させたであろうその考えが、今ではどこか……解放感すら伴っていた。
栗山紗雪は立ち上がると、私を抱きしめた。
「使いの者は手配しておくわ」
私は手紙を丁寧に折りたたみ、我が家のささやかな家紋が入った封蝋を押し当てた。こんなにも小さな一枚の紙。だが、これがすべてを変えるのだ。
婚約が破談になった理由を、灰原景に世間へ説明させてやればいい。灰原琴音に、体面の影から姿を現させてやればいい。そして皆に知らしめるのだ。この冬木千紘は、誰かの都合のいい作り話の登場人物にはならない、と。






