第9章
和也視点
「絵里」俺は、全身に走る悪寒を押し殺し、努めて冷静な声で囁いた。「いいか、ゆっくりと車に向かって歩くんだ。決して振り返るな」
「え?」彼女は戸惑いの色を浮かべ、俺の顔を見返した。「どうしたの?」
「俺を信じろ」声に、抑えきれない切迫感が滲む。「今すぐ、行くんだ」
だが、もう遅かった。
男の一人が俺たちを視界に捉え、音もなく仲間に頷く。その瞬間、彼らの動きは静から動へと切り替わり、まるで精密機械のように、一切の無駄なくこちらへ距離を詰めてきた。
『やめろ。ここでだけは。彼女の前でだけは、やめてくれ』
心臓が肋骨を内側から叩きつける。これは偶然ではない。奴らは、俺を...
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チャプター
1. 第1章
2. 第2章
3. 第3章
4. 第4章

5. 第5章

6. 第6章

7. 第7章

8. 第8章

9. 第9章


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