第342話

フェイラン視点

控えめなノックの音と、それに続く野花の淡い香りが、俺と、俺の中に棲む狼を絶望の淵から揺り起こした。俺は机に突っ伏し、頭を抱え、喪失感に溺れていたのだ。

「フェイラン? 入ってもいい?」

リアの声が部屋に優しく漂ってきた。その響きは躊躇いがちで、甘い。彼女はドア枠から恐る恐る顔を覗かせた。

今日の彼女はいつもと違って見えた――いや、輝いていた。彼女の生まれ持った美しさには常々心を打たれていたが、今の彼女は発光しているかのように、内側から溢れ出る幸福感に包まれていた。激しい嫉妬が胸を引き裂く。彼女をあんなふうに輝かせたのは、彼女の番(つがい)たちだ。俺じゃない。

「ああ...

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