第45話

一瞬、私は祖母の家にいるのだと思い込んだ。濃厚なスープの香りが漂っている。ニンニク、タイム、そしてオレガノ。芳醇なトマトの匂いが私を包み込み、安らぎと安心感を与えてくれる。キッチンからは祖母の鼻歌が聞こえ、私はリビングのソファに横たわっている。カリフォルニアの空気の余韻が肌を温め、痛む筋肉を癒やしてくれているようだった。

ようやく力を振り絞って目を開けたとき、自分がいかに間違っていたかを思い知らされた。ここはカリフォルニアではないし、祖母はもう亡くなっている。安らかな鼻歌の主は、雪のように白い髪をした見知らぬ老婆だった。彼女はキッチンに立ち、大きな鉄鍋をかき混ぜている。肌を撫でる暖かさは、私...

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