第7章

 黒崎修はバルコニーの床に座り込み、冷たい壁に背を預けていた。

 午前三時の東京は、とうに眠りについている。

 窓の外で、遠くのネオンだけがまばらに瞬き、今の彼の無様な姿を嘲笑っているかのようだ。

 彼は膝を抱え込み、向かいのマンションをじっと見つめる。

 かつては深夜に帰宅すると、必ずソファに彼女の姿があった。ドアが開く音を聞きつけ、立ち上がって優しく出迎えてくれたものだ。

 だが、今はもう何もない。

 ガランとした広い部屋に取り残され、ただ一人で夜明けを待つ。

 黒崎修が瞼を閉じると、意思とは裏腹に、陽斗のあの期待に満ちた瞳が脳裏に浮かんだ。

「黒崎さん」

 その言葉は...

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