第8章

 黒崎修の声には、明らかな疲労と不安が滲んでいた。

「何のご用ですか?」

 私は努めて感情を押し殺す。これ以上、傷つけられるのは御免だった。

「話がしたいんだ」

 彼は一歩、足を踏み出した。

「離婚協議書についてだが――」

「もう署名は済ませたはずです」

 私は彼の言葉を遮った。黒崎修の顔色が瞬時に蒼白になる。

「俺は、あの時――」

「あの時あなたがどういうつもりだったか、今となってはどうでもいいことです。私の要求は陽斗の親権、それだけです。財産は一切いただきません。その点は協議書にも明記したはずです」

 黒崎修は呆然と立ち尽くした。

「月島、俺は離婚には応じない」

...

ログインして続きを読む