第5章 彩音視点

松本医師は言い淀んだ。

「申し訳ありませんが、その……少々厄介なことになりまして」

「どういうことだ?」

父が詰問するように尋ねた。

「娘さんの彩音さんが……今朝未明、病院から逃げ出したようなのです。看護師が見回りに行った時には、もう姿がありませんでした」

応接室は死のような静寂に包まれた。

「なんてことを! 美玲はずっと待っていたというのに!」

父は怒りで顔を真っ赤にした。

「やっぱりあの子は信用できないわ!」

母が金切り声を上げた。

「肝心な時に駄々をこねて! なんて身勝手な女なの!」

美玲はすぐに顔を覆って泣き出した。

「私のせいよ……私がお姉ちゃん...

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