チャプター 2

もし不慮の死を遂げなければならないとしたら、タスマン海の底というのは、そう悪くない場所かもしれない。

オーストラリアとニュージーランドの間に横たわるこの海域――通称「ザ・ディッチ(溝)」は、地球上で最も荒れた海の一つだ。千海里にも及ぶ制御不能な海流と、さらに予測不可能な天候が支配している。

そこはまた、科学的に初めて認められた、正真正銘の「セイレーンの歌声」が記録された場所でもある。少なくとも、それが現在の有力な説だ。録音はわずか八秒間だが、その旋律は素人の耳にもはっきりと聞き取れる。そう、それは間違いなく「旋律」なのだ。

発見以来、科学界で巻き起こった議論は……相当なものだった。

だが、大方の意見が一致している点もある。その歌声の周波数はクジラにしては高すぎ、この海域に生息する他の生物にしてはあまりに整然としていること。そして、これほどの深海でこれに似た音が拾われたことは、過去に一度としてないということだ。

だが、私にはわかっている。あれは単なる音以上のものだ。私はそう書きつけ、ノートのページに溝を刻むほどの勢いでペンを走らせる。気でも狂ったかと思われるだろうが、私は確かにあの声を以前どこかで聞いたことがあるのだ。現実の世界ではない……夢の中で。

肌に触れる鱗の感触、そして雨上がりの土と潮の混じり合った匂いを思い出し、私は息を呑む。もしそれが真実なら、何ヶ月も眠れぬ夜を過ごした意味がようやくわかるかもしれない。もしすべてが真実で、人魚の存在を証明できれば、その時こそ……生まれて初めて、私は自分が満たされたと感じられるかもしれないのだ。

その時、大波がトロール船を直撃した。船体は大きく傾き、私自身も、狭い寝台にある固定されていないあらゆる物も、片側へと放り出される。

「勘弁してよ……」私は呟き、来るべく次の衝撃に備えて身構える。

『歌の発生源を見つけるまで、この船がバラバラにならずに持ちこたえればの話だが』と苛立ちまかせに書き殴り、ノートを乱暴に閉じて立ち上がろうとした瞬間、船が再び揺れ、私は無様に尻餅をついた。

「くそっ!」

呪いの言葉が口をついて出たのと同時に、小気味よいノックの音が響く。返事をする間もなくドアがきしみながら開き、教授が隙間から顔を覗かせた。「怪我はないかい、僕の可愛いハニー? 船長の話じゃ、また荒れ模様らしいぞ」

スタンがいやらしい目つきで私の体をねめ回すのを感じて、私は顔をしかめた――自分の「目の保養」が無事かどうか確認しているに違いない。この男は存在自体が不快そのものだが、いつものように私はそれを必死に隠す。スタンは普段からプロ意識に欠けるが、その振る舞いを正そうとする愚か者がいれば神に祈るしかない。五十路手前のくせに、彼はとことん陰湿になれる男だからだ。

「ええ、気づいてますよ」差し出された手をしぶしぶ借りて立ち上がりながら、私は低い声で答えた。

また激しい揺れが船を襲い、スタンがすかさず私を胸に抱き寄せた。「おっと! 気をつけて、ハニー」

彼の声色が粘着質に変わり、間髪入れずにその手が私の肩から背中へと這い回る。尻を掴まれる直前で、私は身を引いた。「死にはしませんよ、教授。それに、もう慣れてもいい頃でしょう? ここ三日間、一時間たりとも平穏な航海なんてなかったんですから」

彼は失望の色を顔に滲ませたが、構わず続けた。「それが『ザ・ディッチ』での生活ってやつさ」彼は含み笑いを漏らし、じりじりと距離を詰めてくる。「陸を出る時に言っただろう、海は女の来る場所じゃないって。もし耐えられなくなったら、僕のところにおいで。同室のパートナーなら歓迎するよ、言ってることわかるだろ?」淀んだ池のような灰色の目が、私の唇へと落ちる。「特に、君みたいにホットな女性ならね」

私は「死んでもお断りよ、この薄汚い変態」という言葉を、最も角が立たないように伝える方法を頭の中で探った。だが、私が口を開いた瞬間、彼はそれをキスの誘いだと勘違いし、唇を突き出して身を乗り出してきた。

私は息を呑み、彼を突き飛ばそうと両手を構えた。その時、今まで聞いたこともないような雷鳴が船中に轟いた。頭上から叫び声が聞こえる――「何かに掴まれ!」という指示。それは夜が地獄へと一変する、ほんの数瞬前の出来事だった。

廊下では、船の猛烈な揺れによってあちこちのドアが乱暴に開け放たれていた。スタンは私を近くの壁に押し付け、彼自身の体と、部屋から飛び出し転がってくる研究資材や乗組員の私物といった瓦礫の間に私を閉じ込める。

「嵐に入ったのね!」私は息を呑む。

「見りゃわかるだろ、お嬢ちゃん」スタンは、恐怖を隠そうとする下手な芝居のような鋭い口調で呟いた。

「スタン! ウィルコックス教授!」別の学生、ウィルが甲板へと続く階段の上に姿を現した。彼は全身ずぶ濡れで震えていたが、その目に宿る狂気じみた輝きからして、それは恐怖によるものではないようだ。「ハイドロフォンが……これを聞いてください! 今すぐに!」

「ハイドロフォンだと? 確かなのか?」スタンが叫び返すと、ウィルは頷き、急ぐように手招きをした。「俺の部屋に行け。そこから一歩も動くんじゃないぞ、いいな?」

どうやらスタンの私への配慮はその程度だったらしい。彼は私をドア枠にしがみつかせたまま置き去りにし、階段へと駆け出した。

「冗談じゃないわ」私は叫ぶと、彼の後を追って飛び出した。

もしハイドロフォンが何かを捉えたのなら、それを聞くのが最後になるなんて御免だ。この日について歴史書が書かれるとき、雷と稲妻に少しばかり怯えていたからという理由で、脚注に追いやられるなんてまっぴらごめんだから。

階段を駆け上がり、そこで急ブレーキをかけて立ち止まる。オーケー、たぶんこれは「ちょっとした雷と稲妻」どころの話ではないかもしれない。

目の前で、厚い嵐の雲がまるで最初から存在しなかったかのように太陽を覆い隠し、昼が夜へと変わっていた。キャビンのドアを押し開けると風が唸りを上げ、雨が刃のように顔を切りつける。甲板は慌ただしく動き回り、嵐は私たちの船を子供のおもちゃのように翻弄している。

私は水のカーテンを通して目を凝らし、深海探査機器のハブにかがみ込んでいるスタンの姿を見つけた。スクリーンの明かりが彼の顔を照らしている。濡れた甲板でブーツを滑らせながら、私は彼の方へと歩み寄った。

「教授! 何が聞こえたんですか?」嵐の轟音に負けないよう私は叫んだ。

スタンが勢いよく顔を上げる。その目は興奮で血走っていた。「ハイドロフォンなんてどうでもいい。あの野郎を映像に捉えたぞ!」彼は獰猛な笑みを浮かべ、モニターを私の手に押し付けた。

スクリーンを覗き込むと、心臓が早鐘を打った。そのシルエットは見間違えようがない。その姿は、ここ数ヶ月私を悩ませてきた夢の中の人魚(マーマン)と一致していた。

「ここは最初の歌が録音された場所と同じ……。でも、同じ発生源のはずがない……そうでしょ?」嵐の中でかき消されそうな声で、私は呟く。

脈拍が速くなる。本当に彼なの? 私の夢に出てくる人魚は、五年前に私の人生の軌道を変えたあの生物と、本当に同一の存在だというの?

スタンは歓声を上げ、稲妻が空を引き裂き、巨大な波が船首に砕け散るのと同時に私の腰に腕を回した。「引き揚げてから本人に聞けばいいさ」狂気じみた激しさを瞳に宿し、彼は叫んだ。

私は凍りついた。「引き揚げる? でも、私たちは行動パターンを観察して追跡することになっているはずじゃ……」

スタンの指が私の肌に食い込むほど強く握られた。「俺にノーベル賞をもたらす魚人が、自ら銀の盆に乗って差し出されたんだぞ」彼の声は嵐を圧して響き渡り、乗組員の注意を集めた。「あの魚を手に入れるまで誰もここからは帰さん、いいか! 引き揚げろ、この海の野郎ども! やったぞ!」

スタンが乗組員を叱咤し、暗く渦巻く海へと深海トロール網を投入するのを、私は恐怖に震えながら見つめていた。まるで自然そのものが私たちに敵対し共謀しているかのように、嵐は激しさを増していく。雨は横殴りに顔を打ちつけ、波が来るたびに甲板は危険なほど傾いた。

乗組員たちは必死の形相で動き回るが、彼らの叫び声は嵐にかき消されていく。スタンは舵を取りながら怒鳴り散らし、網が深淵へと沈んでいく場所から片時も目を離そうとしない。船の装備がきしみを上げ、網が何か巨大なものを巻き上げようと唸る。

「引き揚げろ! 引き揚げるんだ!」スタンが興奮で声を裏返らせながら咆哮する。

荒れ狂う海から網が姿を現すと、私は手すりを握りしめた。心臓が口から飛び出しそうだ。網が高く持ち上がり、危なっかしく揺れるにつれて、乗組員の歓声が嵐の音を上回っていく。それを見た瞬間、私は息を呑んだ――夢に出てきたのと同じ、あの力強く暴れる尾びれ。

彼だ。彼を見つけたんだ。

そう確信できたのは、私が深海探査において世界をリードする機関、ルウェリン大学の海洋未確認生物学の学生だからかもしれない。

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