第66章

高橋契と荒垣誠がオフィスを出ていくのと入れ違いに、佐藤聡の元へ佐藤恵子から電話がかかってきた。

「聡、お店は『雲井』にしたわよ。十三階の五〇四号室」

この電話がなければ、佐藤聡は今日が田中家との会食だということなど完全に忘却の彼方だった。今日は一日中ろくなことがなかった上、今は会社のシステムトラブルへの対応に追われている。優雅に食事などしている気分ではなかった。

「俺はパスだ。そっちで食べてくれ。会社のシステムがトラブってる」

佐藤聡は即座に拒絶した。もともと田中家と食事をする気などさらさらなかったし、ちょうどいい正当な理由ができたと思ったからだ。

しかし、電話の向こうで佐藤恵子の...

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