第16章 明知故問の福江さん

福江良平は静かに座っていた。

警備員と看護師たちは全員退室した。

彼はまだ先ほどの感情の揺れに浸っていた。

これまでの人生で、特別な好意を抱いた女性などいなかった。

心の琴線に触れる女性も、感情を左右される女性もいなかった。

確かに彼は冷酷非情な男だが、常に感情は安定していて、大きく揺れることはなかった。

なぜ千葉清美が現れただけで、こんなに感情が不安定になってしまうのか、理解できなかった。

彼の心は千葉清美の一挙手一投足によって、揺さぶられていた。

会社でさえ、秘書が千葉清美の話を出すだけで、特別に気にかかってしまう。

かつての福江良平は言行一致で決断が早く、一介の女に心...

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