第110章

お風呂から出ると、佐藤久志がまだ部屋にいた。同じ空間にいるのに、もう二人の間には共通の言葉がないようだった。

髪を洗った水原優子の髪からは、まだ水滴が垂れていた。

彼女はタオルで髪を拭きながら、佐藤久志を避けるように部屋を横切った。

「手伝おうか」佐藤久志が近づいてきた。

「大丈夫、自分でできるから」

髪を乾かし終えると、水原優子はベッドに入った。

その頃には、佐藤久志はもう部屋を出ていた。

水原優子は彼の去っていく背中を見つめ、突然涙があふれ出した。

泣かないと決めていたのに、涙はまるでスイッチがあるかのように、ある神経が触れられた瞬間、勝手に流れ出してしまう。彼女にはどう...

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