CH1
「あの人はきっと考え直してくれるわ!」
私はその泣き叫ぶ声を無視した。それが嘘だということは、互いに分かっていたからだ。
竜王が人間を「炎の試練」のために連れ去るようになってから、もう何百年も経っている。彼女の嘆きなど、今となっては茶番でしかなかった。空を切り裂く稲妻を見上げ、私は静かに目を閉じた。弟はまだ幼く、たとえ昏睡状態から目覚めたとしても、何もできないだろう。父は死に、残された未亡人は何の役にも立たない。
あの母親が招いた混乱の中で弟を生き延びさせるためには、私が今後の策を講じるしかなかった。私は彼女を睨みつけ、墓を一瞥してから背を向けた。
明日になれば、私は死ぬ身だ。だが、ゴロウが始めた企みを阻止できれば、弟が次期当主となる望みはある。
ゴロウ……。
父はずっと昔にあの男を一族から追い出すべきだったのだ。それなのに、父は身内の毒蛇たちに対して、彼らに値しないほどの情をかけ続けていた。私は屋敷に入り、外に通じる引き戸を開け放ったまま歩き出した。
「どこへ行くの?」彼女は鼻をすすりながらついてきた。「お父様は――」
「父は死にました。今は弟を生かさなければならないのです。夜明けまでにすべてを終わらせたい」
「終わらせる、ですって?」彼女は顔を真っ赤にして激昂した。「よくそんなことが言えるわね! お父様が亡くなったのよ! 弟だって……私の可愛いあの子は――」
私はあなたの娘ではないのか? そう思い、自嘲気味に笑みがこぼれた。いや、違う。一度だって娘だったことなどなかったのだ。
彼女は再び嗚咽を漏らした。「死ぬのがお前ならよかったのに」
私は呆れて目を回した。「認めてくれてどうも」
私だって馬鹿じゃない。父が弟を連れて出て行った数分後、私の部屋に入ってきた時のあの目つき。あれですべてを悟った。
彼女はゴロウの計画を知っていたのだ。
愚かだ。
救いようのないほど愚かだが、彼女のせいで弟まで殺させるわけにはいかない。使用人が床に滴る水滴を見て何か嫌味を呟いたが、気にならなかった。私はいくつもの扉を開け放ち、ついに叔父のゴロウを見つけた。
彼は大広間に座り、厳粛な喪服に身を包んでいた。親族たちは彼を新当主として仰ぐように整列して座っている。誰も食事には手を付けていなかったが、ゴロウが今後の体制について宣言しようとしているのは明らかだった。
私は奥歯を噛み締めた。父の遺体が埋葬されて数時間も経っていないというのに、奴はすでに実権を握っている。ゴロウは顔を上げ、私と視線を合わせた。その目に悔恨の色など微塵もない。当然だ。その首には、父が当主となって以来ずっと身に着けていた首飾りが下がっていた。
きっと、父の首からそれを奪い取るのが待ちきれなかったに違いない。
あの下衆野郎……。
私は深呼吸をし、やるべきことだけに集中して中央の通路を進んだ。怒りも、この理不尽さも、今は後回しだ。
やらなければならない……。
叔母の一人が私を掴もうとした。「ちょっと、勝手な真似は――」
「静粛に」ゴロウが私を見据えて言った。「もし私の考えを変えに来たのなら――」
「そんな無駄話をするつもりはないわ」私は彼の前で足を止めた。「あなたと話しに来たのよ。当主から、次席のあなたへ」
彼は目を見開いた。「貴様、よくも――」
「父は死にました」ゴロウが口を閉ざす。「弟は昏睡状態です。長子であり、父の唯一の動ける血肉である私こそが、新しい当主です。私の一声があれば、あなたは勅命に背いた罪で告発されるでしょう。そして数時間後に到着するキャラバンに乗せられるのは、あなたの娘になる」
ゴロウは愕然と目を見開いた。私はその視線を真っ向から受け止めた。
「人払いはするの? それとも礼儀正しく話すつもり? あるいは、私が気を使う必要なんてないのかしら? あなたの娘、どれだけ運がいいと思ってるの?」
胃がひっくり返るような思いを抱えながらも、私は片眉を上げてみせた。
「決めるのはあなたよ」
彼は歯を食いしばり、一瞬だけ剥き出しにした。そして私の背後に目をやり、ぎこちなく頷く。
「下がれ」彼が言うと、父の未亡人は他の家族の後を追おうと身を翻した。
「あなたは駄目」私は彼女を睨みつけた。「あなたに立ち去る権利はないわ」
彼女は小さく悲鳴を上げ、彼の隣に座り込んだ。二人が並んでいる姿を見るだけで吐き気がした。他の家族は足音を立てて去っていき、背後で襖が閉まる。部屋は静寂に包まれた。
ゴローが顔を上げる。「私が不公平だと思っているんだろう」
私は瞬きをした。「戦略的だと思っているわ」
彼は目を見開いた。
「それに、取引をすべきだとも思っている」私は続けた。「結局のところ、召喚されたのはあなたの娘であって、私じゃない。王宮だって、あなたが彼らを欺こうとしたと知れば面白くないでしょうね」
ゴローは目を細めた。「書類には――」
「ええ、知ってるわ。書類に記載されているのは年齢だけで、現当主の子であるとは書かれていない。だからこんな真似をしたんでしょう」私は彼に歩み寄り、睨みつけた。「娘のためなら何でもするのね」そして私は父の未亡人に視線を移した。「愛人のためにも」
私は小首を傾げ、冷ややかな笑みを浮かべて席に着いた。
「父さんが土壇場で心変わりしたせいで……計画が台無しになったわね?」
ゴローは顎に力を入れたが、何も言わなかった。鼻をすする音が聞こえたが、彼女の方を見ることはしなかった。
「単刀直入に言いましょう。もう時間がないわ。私は大人しく従うし、当主の座も降りる。その代わり、弟に最高の医者を用意して」私は決意を込めて言った。「たとえ二度と目が覚めないとしても、安らかに逝かせてやってほしいの」
「なぜ私がそんな要求を――」
私はポケットに手を突っ込み、純金の硬貨を取り出すと、彼の目の前に放り投げた。それは帝国の最も裕福な地域でしか使われていない古い通貨だった。下級層の家族のほとんどは、すでに硬貨を溶かして装飾品に変えてしまっていたが、父とそのまた父はそれに反対し続けてきた。人間界と竜の領域をつなぐ門が再び開かれたとき、これが必要になると言っていたのだ。ゴローなら、すべて溶かして下級層での家族の地位を上げるか、上流階級の最高入札者に売り払うだろう。
ゴローは転がった硬貨が止まるのを見届けてから、視線を上げた。「泥棒め」
「私は当主よ。これは『引き出し』」私は微笑んだ。「それに、ここだけの話、宝物庫の場所を知っている人間は、今のところ二人しか生きていないわ」
私は指を一本立てた。「そして私が去れば、残るもう一人はただ息をしているだけ」
「本当に行くのか?」ゴローが尋ねた。
「あなたの娘は大嫌いよ。わがままで、甘やかされたガキだもの」私は彼の共犯者に目をやった。「たとえ腹違いの妹だとしてもね。でも、弟は違う」
ゴローの体が強張った。二人は顔を見合わせた。
「取引成立かしら?」彼が目を細める。私はメダルに視線を落とした。「私が死ねば、このメダルはあなたの役に立つ……。そうすれば、みんなで仲良く『幸せな家族』になれるわよ」
私は彼の返事を待たなかった。キャラバンの到着する音が聞こえていたからだ。家の正面玄関へと向かいながら、私はこれまでに連れ去られた女たちのことを思った。そして、たとえ黒焦げの死体となって戻ってきたとしても、この家族の誰も私のために涙を流さないだろうと確信していた。
扉を開けると、キャラバンから係官たちが降りてきて、こちらへ近づいてくるところだった。
「私の名はモーガン」私は静かに告げた。「十九歳。『炎の試練』への徴収に応じます」
